第28章 佐助のターン
佐助は謙信に鍛えられたお陰で抜群の運動能力を身に付けているが、唯一泳ぐのだけは苦手だった。
直美を抱えて川に飛び込んだ所まではしっかりと覚えている。
でもそこからどうやって岸にたどり着いたのかは何も覚えていない。
放心状態のまましばらくそのまま岸に倒れ込むような態勢になっていたが、冷たい風に体が震えて意識をしっかりと取り戻した。
(直美さんは!?)
立ち上がって自分の周囲を探してもその姿はない。
対岸に目を向けると、少し離れた場所をふらふらしながら歩いている直美の姿を見つける。
(いた!早く向こう側に行かないと!)
泳いで川を渡る自信がないため、直美を見失わない様にしながら急いで橋を探す。
だがどこにも橋が見当たらない。
佐助は自分が無事である事だけでも先に知らせておこうと直美に向かって大きく手を振り名前を叫んだのだが、その瞬間直美は目の前で倒れてしまう。
(まずい、熱があるから早く濡れた着物を着替えて休ませないと!橋を探す時間がもったいないな)
佐助は意を決して川の中に入り、流れが緩くて浅くなっている場所を見つけてそこから対岸に移動する。
急いで直美の元に駆け寄りすぐに横抱きにして立ち上がると、城下町を目指して月明かりの下を歩き始めた。