第28章 佐助のターン
崖下に飛び降りた佐助と直美は、佐助の狙い通り川の中央あたりに落下した。
直美は落下した際、水面に打ち付けられた衝撃で佐助と離れ離れになってしまった。
しかし落ちた瞬間もしっかり意識はあり、今はとにかく早く川から上がりたくて必死に近い方の川岸を目指す。
水をたっぷりと含んだ着物はかなり重く、当然脚も開かないためなかなか思うように動けない。
(泳ぎは得意な方だけど、着物のままじゃ上手く泳げない!)
体の自由を奪う着物と冷たい川の水に、何度も動きが止まりそうになる。
(佐助君を信じて私も頑張らないと!)
無我夢中で手足を動かし、何とか川岸にたどり着くことが出来た。
(よかった、私、生きてる…でもここは?佐助君はどうしてるかな?)
空はすっかり暗くなっている。
月明かりを頼りに周囲を見渡しても城下町の明かりはここから見ることは出来なかった。
その場に座り込んだまま着物の袖を絞って水を抜く。
(全部脱いで乾かしたいけどさすがに無理だよね)
大きなため息をついて顔を上げた瞬間、何かがキラリと光ったのが見えた気がした。
(何?向こうで何か光ったと思うんだけど……)
月明かりに反射して光ったそれは、反対側の川岸でうつ伏せになって倒れている佐助のメガネだった。