第6章 初めての出陣
結局、次の山の麓どころか本陣を敷く予定地まで一気に馬を走らせていく。
先発部隊として先に出発した織田軍の兵たちが急いで天幕を張り、これから始まる戦の準備を粛々と始めていた。
政宗は信長の横に馬を寄せると、木々の間から少し離れた場所に見える上杉武田軍の支城を細目で見つめる。
『三成の言った通り、この場所に本陣を敷くのが一番良さそうだ。ここなら勝利の狼煙(のろし)が一目で分かる』
『政宗、今回は城を潰すのが目的だ。派手に暴れて構わん。もしも上杉と武田が現れたら容赦なく斬れ』
『言われずともそうするつもりです』
この2人のとても頼もしい会話を直美は青白い顔をして聞いていた。
『直美?』
政宗が異変に気付いて直美の顔を覗きこむ。
『どうした?貴様、さっきからずっと大人しいがまた緊張でもしているのか?』
『違います…ちょっと馬に酔ったみたいで…気持ち悪くて…ううっ』
視界がゆっくりぐるぐる回る。
車酔いとも船酔いとも違う何とも言えない気持ち悪さなのだ。
『ははっ!馬に酔うやつなんて初めて見たぞ』
『貴様はまだ修行が足りん様だな。戦が終わったら政宗に馬の稽古をつけてもらえ』
『2人が早駆けなんてするから…ですよ…』
厳しい言葉とは反対に信長は直美を馬から優しく降ろす。
そして風通しの良い場所にある大木を背に座らせると自分の陣羽織を直美に掛けた。
『皆が到着するまで少し休め。天幕が出来たら中で休ませてやる』
戦の緊張で酷い寝不足だったこともあり、目を閉じるとあっという間に眠りについた。
『貴様といると退屈せんな』
夢か現実かわからないけれど信長のそんな声が聞こえた気がした。