第25章 茶会
家康と政宗は気配を消しながら小谷城の敷地内を見て回っていた。
事前の情報では兵糧や武器、弾薬などが城に集められており、それがどの程度で何の目的のためかを探っていたのだけれど。
(こっちは何も収穫なしか。それなら政宗さんの方に何かあるかもしれないな)
家康の進んだ方向に人の気配はなく、物音一つ聞こえて来ない。
くるりと向きを変えると来た道を戻る。
一方の政宗も武器はおろか、城で働く者の姿すら見つけられず違和感を感じていた。
(聞いていた話とずいぶん違うみたいだな。家康が何か見つけてればいいが…)
予定していた半刻よりもだいぶ早く茶室の近くに戻ると、ちょうど反対側から家康が戻ってきたところだった。
『家康、こっちは何もなしだ。戦支度どころか人すらいなかったぞ』
『そっちもですか?俺の方にも何もありませんでしたけど』
2人は同時に怪訝な表情を浮かべる。
『光秀の斥候は優秀だ。間違った情報を送ってくるとは思えねぇ』
『何が目的かわからないけど、用意周到に隠したとしか考えられないですよ』
2人はゆっくり茶室に近づくと気付かれない様に耳を澄ませる。
中で会話する声は全く聞こえない。
しかし入り口となる扉がわずかに開いているのを家康は見逃さなかった。
『あれは!?』
隙間からそっと中を覗くと何かを見つける。
それは床の上に乱雑に散らばった懐紙、扇子、さらには直美がつけていた簪だった。
しかもその簪は以前家康が城下町で直美に買ってあげた物だ。
『…最悪。俺たちが離れた隙を狙ってやられました』
『浅井の奴、やっぱり裏切りやがったか』
残された物の状況からおそらく無理矢理連れ出されたのだろうと推測できる。
『まだ遠くには行っていないはずです』
『そうだな、だが城から外に出る道は3つあるぞ』
政宗の言う通り、南と西の城下町に繋がる2本の道の他、小谷城の裏手からさらに山を登る道が続いていた。
『さっき城の裏手を見ましたけど特に変わったことはなかったです。誰ともすれ違いませんでした』
『南の城下町は信長様の領地が近い。可能性が高いのは西の城下町方面だな』
2人は目を合わせると、西の城下町に向かって急いで走り始めた。