第1章 第1部 森
しかし少し進んだ先で豪快に足を滑らせてしまう。
『いったーーーい!もう、何なのーー!』
思わず大声で叫んでしまったが運良く近くにいた人がすぐに駆けつけて私の体を起こしてくれた。
でも……
『これはこれは、天女が俺に会うためにやってきたのかな?』
私の手を取ると指先に優しく口づけする。
(うわ!この人いきなり何!?)
突然の事にビックリして言葉を失ってしまった。
『信玄、こんな場所で女を口説くな。女、足を怪我した様だが大丈夫か?』
言われて気がついたけど血が出てる。
『痛みはあるけど大丈夫です』
『天女、しっかり手当てしよう。その足では歩けないだろう。それに夜の森の中を1人にしておけない。俺たちと一緒に春日山城においで、歓迎するよ』
そう言って信玄と呼ばれた男の人は私を軽々と横抱きにした。
『おい、城主の許可もなしに何を言っている。佐助、幸村、今すぐこいつを斬れ』
こちらのオッドアイの男性が城主なのだろうか?もの凄い上から目線だ。
『あのー、信玄って呼ばれてましたけど、まさかあの有名な武田信玄様?…じゃないですよね?』
『ん?俺の名前を知っているなんて嬉しいな』
(ま、まさか!?じゃあさっきのは本物の織田信長だったの?)
『俺の隣にいるのが上杉謙信で、赤いのが真田幸村、眼鏡が佐助だ』
『分かりやすいけど他に言い方ねーのかよ』
『あの!今って何年ですか?』
『お前、頭でも打ったのか?1582年に決まってんだろ』
幸村の言葉が信じられなかった。
会話の最中に佐助が周囲を警戒し、様子を伝える。
『信玄様、謙信様、何者かがこちらを伺っているようです。複数いるかと…』
『ああ、その様だな。せっかくだから俺が相手をしてやろう。信玄、女を口説く暇があるなら鍛練だと思ってお前も加われ』
『やれやれ仕方ないな。佐助、しばしお前に天女を預けるがくれぐれも抜け駆けするなよ?』
『ご心配には及びません』
謙信が楽しそうに刀を抜いたその瞬間、黒装束の男達が暗闇から現れて斬りかかってきたのがわかった。
3人がすぐに応戦する。
佐助君は私を横抱きにしたまま離れた場所まで移動し始めた。
まさか突然目の前でいきなり刀を交えた戦いが始まるなんて…カルチャーショックで泣きそうだった。