第1章 第1部 森
『君のことは守るから安心して。その格好、未来から来たんだよね?』
佐助君の言葉は衝撃だった。
どうやらここは1582年6月の日本で間違いないようだ。
彼も2018年から来たらしい。
それも今いる時代の4年前に飛ばされて、戦場で謙信様を助けた縁で忍者となり部下にしてもらったんだとか。
元の時代に戻る方法や他の事ももっとじっくり話がしたかったのに。
周囲が静かになった瞬間佐助君が私から離れ木の上に姿を消してしまった。
『佐助君?どうしたの?』
『直美さんにお迎えが来たみたいだ、必ず会いに行くから上手くやって。一緒に元の時代に帰ろう』
そう言うと完全に佐助君の気配が消えてしまった。
すぐに馬の駆けてくる音が聞こえ、私の側に寄ってくる。
『お前が直美だな、信長様がお呼びだ。一緒に来てもらう』
『は?あなた誰ですか?いきなりそんな事言われてついていく人いないと思いますけど』
『おー、聞いていた通り元気な娘だな。俺は伊達政宗。信長様とは同盟を結んでる。おい、三成も自己紹介しろ』
『直美様、私は石田三成と申します。信長様の家臣である豊臣秀吉様に仕えています。決して怪しい者ではないのでご安心くださいね。怪我した所、応急処置だけでもさせてください』
そういうと竹筒に入った水で血を洗い流し、きれいな布を巻いて素早く手当てしてくれた。
『城まではこれで我慢してくださいね。城に着いたら家康様に診てもらいましょう』
三成君のエンジェルスマイルが眩しくていつまでも見ていたいなんて思ったのもつかの間。
有無を言わさずひょいっと政宗の馬に乗せられた。
足が痛いからもう逃げられないし逃げ出す隙もない。
それに疲れてしまって何だか言葉も出てこない。
考えるのも疲れてきた。ぐったりだ。
『政宗様、私は先ほどの気配が気になるので調べてから戻ることにします。先に城にお戻りください』
三成君からエンジェルスマイルが消えて真剣な表情を浮かべていた。
『ああ、だがあまり深追いするなよ。必要なら俺の部下も使え。直美、落ちるなよ。行くぞ!』
その後は政宗と数人の部下とともに森を抜け、安土城まで向かった。
月はとても綺麗なのに、心の中はもやもやと霧がかかった様に不安でいっぱいだった。