第1章 第1部 森
一人で京都を旅行している最中だった。
本能寺跡地に寄ったら近くに雷が落ちて…
ものすごい音とあまりの眩しさに一瞬目を閉じた。
けれど再び目を開けたら何故か別の世界、しかも目の前は火事。
近くで寝ていた男の人を急いで起こして建物の外に出たけれどその人と会話が全然噛み合わない。
それどころか自称『織田信長』って?
それに命を助けたからって
『貴様、天下人の女になる気はないか』
だなんて。
いきなりそんな事言われてなる人いないし。
助けたお礼をするから名乗れと名前を聞かれた(言わされた)から答えたけれど。
『直美か、いい名前だな』
『褒めても何も出ませんよ!それじゃ、さようなら!』
気づいたらその場から走り出していた。
頭の中は真っ白で自分の置かれた状況が全く理解できない。
泣きそうになりながら森の中を当てもなく走っていたけれどあまりにも暗く寂しくスピードが落ちる。
『はぁぁ……ここ、どこ?』
立ち止まってため息をついた所で月明かりを背にした袈裟姿の男の人に話しかけられた。
『お嬢さん、こんな所でどうした?夜の森はとても危ない、鬼がうろついているぞ。安全な場所まで私が案内してやろう』
言葉は優しいのだけれど、月明かりでちらりと見えた顔の傷跡のせいなのか、何かが怖くて本能が拒絶する。
(一緒にいちゃいけない気がする)
やんわりとお断りして走り去る様にその場を離れた。
(どこなのかわからないけど道を進めばどうにかなるよね!)
とにかくまずは森から出るために前に進もう、そう考えて足を動かす。今出来るのは前に進むこと。
『あの娘を追え、生かしたまま捕らえろ。織田信長を助けた娘、ただ者ではないはずだ』
先ほどの袈裟姿の男、顕如が目の奥を光らせながら部下に放ったその声は私には聞こえなかった。