第25章 茶会
茶室に案内された直美。
約束の時間よりまだ早いのだが、中に入るとすでにもう一人の招待客が奥に座っている。
見たことのない人物だ。
『お待たせしてしまい申し訳ございません』
手をついて頭を下げる。
『貴女が安土の姫君ですね。どうぞ顔をあげてください』
言われるがまま顔を上げて声の主を見るが、やはり全く知らない人物だ。
『安土より参りました直美と申します。本日はお招きいただきましてありがとうございます』
秀吉に教わった通りこちらから挨拶をすると長政が後ろで茶室の内鍵を掛けた音が聞こえる。
(鍵?ただのお茶会なのに密室にするの?)
『直美、この男は私の友人の朝倉義景だ』
その名前を聞いて一瞬にしてその場の緊張感が一気に高まる。
(朝倉義景って完全に信長様の敵だ!どうして?それにこの状況、政宗たちが戻ってきたらかなり大変な事になるんじゃ…)
まずはこの状況を説明してもらわなければならない。
『長政様!これは一体どういう事でしょうか?』
『今をもって織田との同盟を解消し、朝倉と正式に同盟を結ぶ。そろそろ安土にもその旨を書いた文が届いているはずだ』
(やっぱり史実通りに信長様を裏切って敵の朝倉と手を組むんだ…じゃあこのお茶会は何のためなの?もっと話を聞き出さないと!)
『もしかしたら先日、鷹狩りの途中で襲われたのは最初から長政様の計画だったんですか?』
『ああ、そうだ。あの時は驚かせて悪かった。君が織田軍にいる事をこの目で確認するためわざわざ安土を訪れたんだよ』
『私を確認するため?』
『噂で織田軍には戦を勝利に導く戦女神がいると聞いてこの目で確認しに行った。すぐに直美の事で間違いないと確信したな』
『戦女神なんかじゃありません。全然違います』
『調べによると直美が安土城で暮らす様になってから織田軍は負け知らずだ。それどころか勢いが増している。それに戦女神はあの西の謀神に刀を向けて戦ったとも聞いている。直美の事なんだろう?』
毛利元就に一瞬だけ懐刀を向けた事を言っているのだろうか。
あの場には自分と毛利元就しかいかなかったはず。
(噂を流しているのは毛利元就ってこと?)
頭の中は大混乱していた。