第25章 茶会
見覚えのある男の姿を急いで追いかけ、ようやくその姿を視界に捉える事ができた。
『待って!景家さん!!』
直美が呼び止めたのは春日山城にいるはずの謙信の家臣、柿崎景家だった。
『直美様!お久しぶりです。怪我の具合は良くなられましたか?』
『はい。春日山の皆さんは変わりないですか?』
『皆、貴女がいなくなって寂しそうにしています。私はまだ貴女の事を諦めていませんし、お部屋もそのままにしてありますからいつでも春日山城にいらしてください』
『あはは…信玄様に返してもらいたい物があるので今度伺いますね』
まさかまだ自分の部屋をそのまま残してくれているなんて正直驚いた。
懐刀を返してもらわなければならないので、春日山城には足を運びたいと思っているのだけれど。
でもまず今は目の前の茶会が先、春日山城に行くのは茶会が済んでから信長に許可を取らなければならない。
『ところで景家さんはここで何をしてるんですか?』
こんな場所で会うなんてあまりにも不自然だ。
(長政様は表向きは織田軍と同盟を組んでいるはずだからここは景家さんにとっては敵地なんじゃ?ちょっと不自然だよね)
直美の百面相を見て、景家は声をひそめながら質問に答えてくれた。
『偵察ですよ。信玄殿の三ツ者がこの城で戦支度をしているとの情報を入手したので私が様子を見に来たのです。春日山城へ攻め込んで来るのであれば謙信様も黙ってはいないでしょう』