第5章 家康と金平糖
話をしながら歩いていると店先に並べられた簪が視界に入った。
『ちょっとだけ見て行ってもいい?』
『まだ時間もあるし好きなだけ見ていきなよ』
並んでいる中で気に入ったのが黄色い山吹の花をモチーフにした簪だった。
(可愛い!それにこれなら現代に持って帰っても普通に使えそう)
『欲しいって顔に出てるよ。それ、気に入ったんなら買ってあげる。御殿で色々手伝ってくれたお礼だから勘違いしないでよね』
(一言多いんだよなぁ、でも嬉しいかも)
『ではお言葉に甘えます!どうもありがとう!』
(なんだかデートしてるみたいになってきたかも。用事を済ませに城下に来たけどせっかくだから楽しまなくちゃね)
だけどそんな考えは甘かったのかもしれない。
家康が支払いを済ませ、簪を手に店を出たところで数人の男たちに囲まれてしまった。
『徳川家康だな、信長との同盟を今すぐ解消すると誓え。出来ないならこの場で殺す』
『噂をすればだな。お前ら今川の残党か、安土まで来るとは相当暇みたいだね。直美、俺が相手してる間に走って逃げて』
家康はそう言うと刀を抜き、男たちと睨み合う。こんな表情初めて見た。
『死にたくなかったら早く行って!』
そう言われて駆け出したけれど…あまりにも必死に走ったせいで城下の外れまで来てしまった。
(完全に迷っちゃった…)
誰かに安土城までの道を訪ねようと思っていたら聞いた事のある声がする。
『直美さん、元気だった?久しぶりだね』
その声の主は佐助君だった。
『佐助君!どうしてここに?』
『安土に偵察がてら君を探してた。今日一緒にいたのって徳川家康さんでしょ?羨ましいな』
羨ましいだって?そうか、全然知らないんだもんね。
『かなりのツンデレだからイメージと違うよ』
『それなら俺の上司も同じだ。謙信様ってあんなにカッコいいのに女嫌いで有名なんだよ』
普通に怪我の心配してくれたのに女嫌いだなんて信じられない。
『あの時は君を置いて去ってしまってごめん。さすがの俺も二人の武将を相手にする勇気はなくて』
政宗と三成君の事か、確かに1人で相手をしたら怪我だけじゃ済まなそう…
『あの後、直美さんはどうしたんだって謙信様と信玄様からしつこく尋問されたよ…とにかく直美さんが無事でよかった』