第20章 毛利元就
『他に誰がいる』
『謙信様の考えている事はわかりません。私、ただの人質として春日山に来ているだけですから』
直美が上杉謙信の寵姫ではなく人質だと知らされ、元就は驚きの表情を隠せなかった。
『人質だと?その割には懐刀なんか渡されて大事にされていた様だな。間違いなく寵姫だと思っていたが本当に違うのか?』
『あの懐刀は成り行きで無理矢理持たされたんです。深い意味はありません』
元就からの質問は続く。
『じゃあ、どうして春日山に連れて来られた?お前、人質になる前はどこにいたんだ?』
『……安土城です。どうして人質になっているのかは話すと長くなります』
『安土からの人質って事だな。あぁ、そうか。さっきここに来る途中に織田軍の兵を何人か見かけたが、軍神と戦になっても取り戻す価値がある女って事か、へーえ、ますます面白いな』
『そういう事なんで、私は謙信様の事はよくわかりませんし、謙信様の弱点として利用するのは意味がないと思います』
『だが織田信長、もしくは織田軍の弱点にはなり得るという事だろ?』
『それは…私には否定できません』
織田軍に迷惑はかけたくないが今の状況では逃げ出す事など出来ない。
唯一出来るのは会話を引き延ばしながら助けを待つ事だけだった。