第19章 白鳥城
『あなたの事、信じられないです。だから簡単にはついて行きません』
ゆっくりと胸元から懐刀を取り出した。
謙信から渡された姫鶴一文字とお揃いの短刀だ。
このような状況でしかも本物を取り出すのはもちろん初めての事で、さすがに少し震えてしまう。
だが元就に刃先を向けた瞬間、手首を掴まれて簡単に刀を奪われてしまった。
『っ……』
『おいおい、隙だらけだぞ。持たされただけで使い方を教わってないんだろ。鞘から抜いたと同時に斬りかからないと殺られるぞ』
今度は奪われた刀を首筋に当てられ、身動きが取れなくなってしまった。
『それでもあなたにはついて行きません!』
『時間がない、少し大人しくしてろ』
その言葉の後、一瞬だけ鳩尾(みぞおち)に痛みを感じ意識を手放してしまった。
元就は直美を肩に担ぐと火の灯っていた蝋燭を勢いよく蹴り、牢に火をつけ去って行った。
支城のすぐ近くから上がる黒い煙を織田軍、上杉武田軍の全員が異常事態だと判断する。
織田軍は信長を、上杉武田軍は謙信を先頭に支城へと全力で馬を走らせて行った。