第18章 囲碁勝負
『信長は自分に敵対する武将を匿った寺を跡形もなく焼き払ったんだ。敵国の城を攻めるならともかく、人々の心の拠り所になる寺を焼くのは許せなかった。俺は信長に対して宣戦布告し、同盟関係にある徳川領を攻めた』
『それが三方ヶ原の戦い……でも戦の最中に姿を消して病死したって言われてたんですよね』
『戦場での無茶がたたって、少し病をこじらせて倒れたんだ。それでも戦場に戻ろうとして幸に止められた。今俺が倒れたら武田は二度と再興できないってな』
『それで病死したと噂を流して謙信様の元に身を寄せたんですか』
『ああ、そして武田は惨敗した。敗走する兵たちは信長の手によって徹底的に叩き潰された』
ほとばしる激情を抑えるように信玄の声が低くなった。
『いつか俺はまた武田の軍旗を青空に堂々と掲げたいんだ。散って行った仲間を供養して、生き残った仲間がのんびり暮らしていける場所を取り戻す。それが信長と戦う理由だ』
こんな深い理由があるなんて今までずっと知らなかった。
(時代が少しでもずれていたら信長様と敵対する事はなかったかもしれないのに)
『教えていただいてありがとうございます』
気がつけば碁石を置く手がいつの間にか止まっていた。