第18章 囲碁勝負
今夜の囲碁勝負は襖を少しだけ開けて、月を眺めながら行った。
本当は全然囲碁なんてする気分じゃないのだけれど、人質である以上今は断れる立場にない。
『さーて、今夜はどの作戦でいこうかな』
『心理戦はだめですよ』
『今夜の勝負は戦の前の前哨戦だ。負けるつもりはないぞ』
『望むところです!』
静かな部屋にゆっくりと、交互に碁石を置く音が響く。
しかし今夜は無言でいる事で何故か集中力を欠き、どうにかして空気を変えようと質問をする事にした。
『信玄様はどうして信長様と戦うんですか?』
『いきなり何を聞いてくるかと思ったらそんな事か。でも俺に興味を持ってくれるなんて嬉しいな』
そう言っていつもの優しい目で見つめられる。
でも流されない。
本当に答えが知りたかったからだ。
真剣な表情で信玄を見つめ返した。
『信玄様はかつては信長様と友好的な関係を築いていたはずですよね?』
自分の歴史の知識が間違っていなければ、2人の関係はそうだったはずだ。
『ああ、よく知っているな。確かに俺と信長は考え方の違いはあったが、すぐに反目しあう様になったわけじゃない。信長の政(まつりごと)の才は認めていたし、友好な関係を築いていた。ある時まではな』
『ある時まで、ですか』
すぐに話に引き込まれた。
適当に答えておしまいだろうと思っていたのに、一つ一つ言葉を選んで丁寧に話をしてくれている。
絶対に聞き逃してはいけない、そう思った。