第4章 秀吉と金平糖
安土城を出発し無事に城下へとやってきた。
大通りにはそれなりの人の数があり、町の賑わっている様子が伺える。
(信長様は城下町の発展にも力を入れたって勉強したけれど本当なんだな)
『じゃあ、まずは金平糖から買いに行くぞ』
秀吉さんに案内されたのは甘味のお店だった。
どうやら金平糖は持ち帰り専用の裏メニューになっているらしい。この時代ではかなり貴重なのだろう。
店主が秀吉さんを見てすぐに店の戸棚から小瓶を取り出す。
『豊臣様、いつもありがとうございます』
『ああ、また来るから仕入れといてくれ』
なーんだ、口ではダメとか言ってるけど常連さんなんだ!
甘味屋を出ると家康からの頼まれごとを済ませるため歩き始める。
『秀吉さんは信長様に対しては金平糖より甘いですね!』
『命令に逆らってあのお方を怒らせたらどうなるか知らないだろ』
『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス、ですね!』
『なんだその句、面白いな』
『秀吉さんなら鳴かないホトトギスをどうやって鳴かせますか?』
『俺ならどうやっても鳴かせてみせるけどな』
『じゃあ鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス、ですね!』
『ははっ、なかなか上手いこと言うんだな』
そう言って大きな手で頭をぽんぽんしてくれる。
怪しい女とか言われて睨まれてたのが嘘みたい。
それから少し歩いていると道端に何か落ちているのに気がつく。
前を歩いていた人が落としたのかもしれないがよくわからない。
『何だろ、これ』
近寄って拾おうとしたところを秀吉さんに止められた。
『直美、待て!それに触るな!』
それは指先にはめて使う猫爪と呼ばれる忍者の道具で、鋭く尖った爪が付いているのが特徴だった。
これを5本の指にはめ、毒を塗って相手を傷つけるという恐ろしい道具だ。
秀吉さんはそれを手拭いで包む様に拾い上げる。
『織田軍にも忍はいるがこんな落とし物は絶対にありえない』
そう言って拾い上げた猫爪を色々な角度から眺めると表情が一変した。
『これは北条の忍の物だ。すぐ信長様に報告する。光秀を迎えに来させるから次の店で待っててくれ』
家康から頼まれた買い物を済ませると秀吉さんは急ぎ足で安土城へ戻って行ってしまった。
大通りを行き交う人たちを眺めながら光秀さんが迎えに来るのを待つしかなかった。