第16章 増山城
盃に口をつけて飲み始めるとそれを見ていた家臣たちが次は自分に注がせろと言わんばかりに、わらわらと直美の元にやって来る。
(うわぁ、無理無理無理!!全員相手にしてたら確実に潰れちゃうってば!!)
ふと横を見ると、まるで水でも飲むかの様に驚異的なスピードでお酒を飲む謙信が視界に入る。
が、家臣の一人と話し込んでいる様でこちらの視線には気づいていない。
信玄も真剣に話し込んでいる様で、こちらの様子に気づくことはなかった。
(これは…もはややばい予感しかしない……)
それから盃に何度お酒を注いでもらっただろうか。
完全に…………酔った。
家臣たちが全員自分の席に戻ったタイミングで謙信に話しかける。
『謙信さまぁ…………うふふっ』
いつもと違う直美の様子に謙信は思わず目を細める。
『おい、まさか酔っているのか?』
『ぜーんぜんっ!酔ってなんかないです!うふふふっ』
もう完全に酔っていると認識された。
『水をもらってくる』
『お水ですか~?私も手伝いますよ~!』
そう言って立ち上がろうとして足元がふらついた。
倒れそうになったのを素早く謙信が支え、そのまま直美を横抱きにする。
『少々飲み過ぎたようだ。部屋に送り届けてくる』
全員の視線を背中に感じながら2人は広間を後にしたのだった。