第16章 増山城
増山城に着いたその夜は小さな宴が行われた。
直美は城で働く家臣たちの盃にお酒を注いで回る。
全員が謙信を心から慕っている人たちだと思うと気持ちはラクだった。
一通り広間を回って謙信の横に戻ると、謙信から盃を渡される。
『ご苦労だった。今宵はお前も飲め』
目の前にすっと差し出される盃。
その向こうの綺麗なオッドアイとがっちり目が合った。
(うっ…日本酒飲めないなんてこの状況で言ったら斬るって言われそう!それに空気が読めない人間だと思われる。謙信様にあわせないとそれはそれで後から大変な事になりそうだし…)
迷っている時間はない。
盃を両手で受けとると、すぐになみなみとお酒が注がれる。
『飲め』
『ありがとうございます』
(あぁ、無理だ。ここまでされたらさすがにもう断れない)
覚悟を決めてこの日の夜は謙信の酌に付き合うことに決めた。