第16章 増山城
蔦花の店の前に突然現れた光秀。
もちろん春日山に送り込んだ斥候からの報告により直美が増山城に来る事を事前に知らされていた。
店先に立つと優しい笑顔を見せながら蔦花に話しかける。
『いきなりですまないが直美と何を話したか教えてくれないか?俺はあいつをここまで探しに来たんだ』
蔦花はつい先ほど話したばかりの直美の名前を出されたのに驚いたが、光秀の優しそうな表情に警戒心はさほど生まれなかった。
だがいきなり全て話すほど口は軽くない。
『失礼ですが直美ちゃんとはどんな関係なんですか?』
『怪しい者ではない、名は十兵衛という。直美とは師弟関係にある』
明智光秀とは名乗らず通称の名を告げる。
師弟関係というのも光秀の御殿で姫修行をしていたのだから間違いではない。
光秀の言葉と表情に嘘はないだろうと判断した蔦花は、数分前の会話の内容を光秀に伝えた。
『青葉城に行っても伝言に時間がかかるだろう。俺が代わりに直接安土城に使いを出してやる』
『安土城に?それで大丈夫なんですか?』
『ああ、心配ない。直美の狙いは安土に自分の身は大丈夫だと知らせる事だ。本人が語ったのだから価値ある証言になる。目撃情報だけではわからぬ事も多いからな』