第16章 増山城
蔦花の作った簪と帯飾りを信玄に買ってもらい直美はご機嫌だ。
『こんな素敵な物をありがとうございます』
『可愛い顔でどっちがいいかなんて聞かれたら両方買ってあげたくなるのが男だからな』
直美の機嫌がいい理由はもちろんそれだけではない。
少し時間はかかるかもしれないけれど青葉城を経由して安土城に自分の発した言葉が届くはず。
そう思うと嬉しくて仕方がなかった。
『姫、ずいぶんと機嫌がいいが女の子同士の会話はそんなに楽しかったのか?』
『はい!とても!自分と同じくらいの年齢の子と話をしたのは久しぶりでした。短い時間だったけれど本当に楽しかったですよ』
『春日山城は男しかいないからな。それに小田原城も似たようなもんだったろう?』
『そういえばそうですね。小田原城ではあまりにも緊張の毎日で気にしてなかったですけど』
言われてみると確かにそうだった。
だがすぐに小田原城での事は頭から出ていき、蔦花との会話を思い出す。
(やっぱりガールズトークっていつの時代でも楽しいな。政宗のファンかぁ、うんうん、分かるよ。料理上手だし馬に乗るのも上手いし)
『うふふっ』
『好いた男の話でもしてたのか?』
そこはやはり鋭い信玄、表情からどんな会話だったのか読み取ってしまう。