第16章 増山城
初めて訪れる城下町はいつでもワクワクする。
2人並んで歩いていると、通りの端に簪や帯飾りを並べている店を見つけた。
流しの行商なのか、大きめの風呂敷の上に商品が所狭しと並べられている。
しかしそのどれもが増山杉を加工して作られた物であり、思わず足を止めて見とれてしまった。
店番をしているのはまだ二十歳くらいの女性だ。
『いらっしゃいませ!これ、私が全部作ったんですよ、お土産にいかがですか?』
『お姉さんが作ったんですか!すごーい!どれも手作りなのに完成度が高くて素晴らしいです』
『明日にはこの土地を離れる予定なんで特別にお安くしますよ!』
『そうなんだ。信玄様、ちょっとゆっくり見てもいいですか?』
『ああ、気に入ったのがあったら何でも買ってあげるからゆっくり選ぶといい。俺はすぐそこの甘味屋で待ってるよ。変なのに絡まれない様、店先から見ててやるからな』
そんなやりとりの後、信玄は近くの甘味屋へと入って行った。
『どれも素敵で悩むなぁ』
『オススメはこの簪かな』
『香りがするだけじゃなくて色もいいね!』
この時代に来て同じくらいの年齢の女の子と話したのは初めてで。
ただのお客さんという立場なだけなのに何だかとても楽しかった。