第15章 再び城下へ
至近距離から急に注がれた大人の優しい眼差しに、つい飲み込まれそうになる。
『佐助から何があったのか聞いた。とんだ災難だったな。もちろん景家には言ってない、知られたら説教八割増しでは済まなそうだからな』
そう言うとそれ以上は何もせず、そっと指を離す。
『大丈夫です。それに信玄様が謝る事ではないです』
『そうはいかない。君をここに連れてきたのは俺の案だからな。責任を感じるさ』
(私、人質なのにそんな風に思ってくれるなんてちょっと意外だな)
『じゃあ、そこまで心配してくれるなら早く安土に帰してください。諦めません、是非ご検討を!』
『ふっ、それは景家の真似か?なかなか似てるな。だがまだ帰せない。それに言っただろう、帰りたくなくなるくらいもてなすって』
『じゃあこれはどうですか………安土に帰さぬのなら斬る!』
『ああ、謙信に似てる。だが姫では説得力がなさすぎるな。それにそんな可愛い事をされたら尚更帰せないだろう』
そしていつもの様ににっこり笑うのだった。
(信玄様の顔から心配そうな表情が消えた、良かった)