第15章 再び城下へ
佐助、景家、謙信が鍛練場で真剣勝負を始めたのを見ると信玄は直美の部屋を訪れた。
『姫、入ってもいいかい?』
『信玄様ですね、どうぞ』
信玄は後ろ手で襖を閉めると直美の正面に座って顔を覗き込む。
『疲れが顔に出てるな。景家の説教は効果絶大だっただろう』
『はい。しばらく城下に出る事を禁止されちゃいました』
あんな事があったのでいわゆる謹慎状態だ。
しかし元々は人質の扱いだし、自分が城下に出たいと佐助を付き合わせたのが原因なので反論の余地は全くなかった。
『今日は景家さんに助けられました。ますます頭が上がらないです……』
『心配しなくて大丈夫だ。もうじき越中(富山)と越前(福井)に挨拶回りに行く。景家はついて来ないから安心しろ』
ため息をつきながら碁盤と碁石を用意する。
『じゃ、今夜の勝負を始めよう。ああ、その前に』
『ん?何ですか?』
信玄は直美の近くに移動すると両手で頬を包み、親指でそっと直美の唇に触れた。
『なっ、何ですか急に!』
『守ってやれなくてすまなかった』
それは今までに一度も見たことがないくらい心配そうな表情で。
信玄の新たな一面を見た気がした。