第14章 春日山
『この懐刀はまだ預かっておく。それに君は今、こちらにとって大事な人質であるという事を忘れてはいけないよ』
そんなに簡単には城から出してもらえると思わないけれど。
言葉にされた事で現実を突き付けられて急に不安になってきてしまう。
『そんな顔をしなくて済むよう、全力で君をもてなそう』
信玄はそう言って優しい笑顔を直美に向けた。
その時、一人の男が近づいてきて信玄に話しかける。
『信玄殿、こちらの女性が直美様ですか?』
『ああ、そうだ。まだ城の者たちには身分を伏せてある。姫、この男は謙信の家臣だ。城の留守をいつも任せている信頼できる仲間だよ』
『直美様、お初にお目にかかります。謙信様の家臣の一人、柿崎景家と申します』
簡単に挨拶を交わし、視線を向ける。
綺麗な顔立ちで年齢は信玄より一回りくらい若く見えた。
『で、何か用なのか?』
『謙信様がお呼びです。直美様は広間で待つ様にと。私が案内いたします』
『わかった。景家、姫に惚れるなよ?』
『大丈夫です。ありえませんから』
(え?ありえないって言った?さりげなく超失礼な事を言ってません?一体何なの!?)