第14章 春日山
春日山城は安土城の様に山頂に作られている。
山中には春日山城と支城、砦を結ぶ軍事用通路があり、ここもまた難攻不落の城とされていた。
(思ったより広くて迷いそうだし、それ以前に逃げる隙がなさそう…)
歩いているとあちこちから視線を感じる。
『信玄様、私何か変でしょうか?さっきからずっと視線が気になるんですが…』
『ああ、あの謙信が女を連れて帰ったって大騒ぎになってるからな』
『それだけの事で騒ぎになるんですか?』
『あいつは女嫌いで有名なんだ。実際には嫌いじゃなくて寄せ付けないだけなんだけどな。この城もずっと女人禁制。だから皆、君の事を知りたがってる』
『女人禁制?じゃあすぐこのお城を出ていきます!』
歩くのをやめてその場にピタリと立ち止まった。
だが信玄は動じない。
『これを置いていくのか?返して欲しいだろ?』
そう言って信玄が直美に見せたのは信長からもらった懐刀だった。
『返してください!!』
近寄って手を伸ばすと、懐刀を持つ手を上に上げられる。
(これはまた同じパターンだ!)
早々に取り返すのを諦め、むっとした表情で睨むと、お気に入りの遊びを見つけた子供の様に楽しそうに笑う信玄の姿があった。