第13章 それぞれの戦い
『天女、遅くなってすまなかったな』
『一緒に斬られたくなければそこをどけ』
謙信が刀を抜いたまま氏政に近寄る。
覚悟を決めた様に目を閉じる氏政の首元に刀を一文字に向けた。
(あぁ、もうダメだ、こんなの見てられない)
思わずぎゅっと目を閉じる。
しかし斬る様子はない。
それどころか謙信は刀を鞘に収めてしまった。
(えっ?どうして!?)
『手負いで手足も出せぬような奴を斬ってもつまらん、冷めた』
『お前らしいな。それに天女の前で首を跳ねるなんてあまりにも悪趣味だ』
そう言うと信玄は直美に手招きする。
不思議に思っていると、信玄の右手に信長からもらった懐刀が握られているのが見えた。
どうやら幸村に突き飛ばされた時に床に落としてしまったらしい。
『君の大事な物なんだろ?』
『はい!それ、私のです。拾ってくれてありがとうございます』
信玄の前に立ち、懐刀を返してもらおうと手を伸ばした。
すると信玄は意地悪そうに懐刀を持った右手を上に上げる。
『!?』
また手を伸ばしたけれど更に腕を上に上げられる。
そんな事を数回繰り返した。
信玄との身長差は30センチ以上あると思われ、懐刀に指一本触れることが出来ない。
『んーーーーーっ!!!』
最後には両手を精一杯上に伸ばすが届くはずもなく。
信玄は面白くてたまらないといった表情だ。