第13章 それぞれの戦い
幸村が再び天守に呼ばれた頃、城の外にも大きな動きがあった。
『ようやく小太郎が戻ってきた様だな』
氏政の横に並んで天守から城の外を見下ろすと、小太郎が雨の中を仲間を引き連れて城に向かって駆けてくるのが見えた。
小太郎は屋根の上を巧みに移動するとあっという間に天守にたどり着き、氏政がすぐに指示を出す。
『小太郎、今すぐ織田軍と上杉武田の後ろに回り込んで攻撃を開始しろ』
しかし小太郎は返事をしない。
いつもと違う様子に氏政の表情も次第に険しくなっていく。
少しの沈黙の後、ようやく小太郎が口を開いた。
『里の者たちと話し合った結果、風魔一族は北条家と縁を切る事にいたしました』
突然の展開にも関わらず氏政は冷静だった。
『その様な事をすれば里がどうなるか分かっているのだろうな』
『はい。長い間、里にいる子供や年寄りを人質に取られ北条家に仕えてきました。
ですが、それももう終わりです。
里を常に見張っていた北条軍の兵はこの数日で一人残らず片付けました』
そう言うと小太郎は忍刀を鞘から抜いて氏政に刃先を向ける。
危険な空気を察した幸村が直美を守る様に背中に隠した。
『俺とやり合うつもりか、良い度胸だ』
氏政も静かに刀を抜き、小太郎と睨み合う。
下の階からは武装した氏政の家臣たちと小太郎の仲間が激しく戦う様子が音となって伝わってきていた。