第13章 それぞれの戦い
いつの間にか空からは大粒の雨が降り始めていた。
(おい、氏政のやつ本当に撃つつもりか?直美は怖がってる様に見えねーし。異様な空気だな…)
直美は銃口を向けられても微動だにしなかった。
そしてはっきりとした口調でこう言った。
『では、私と交渉してくださいませんか』
光秀から本物の銃を向けられながら修行したおかげで、少なくとも取り乱す事はなくなっていた。
声も体も震えていない。
だが、心はどうしても震えてしまう。
(やっぱり怖い、でもこのままじゃ絶対ダメ!)
心の中を悟られぬ様、目を逸らさずにじっと氏政を見つめ続ける。
直美から発せられた言葉は氏政にとってはかなり予想外のものだった様だ。
『良いだろう。銃を向けられても動揺しないとは大したものだな』
そう言うと笑みを浮かべながら銃口を下に向けた。
『先ほどお伝えした様に、今の私は銃を向けられ圧倒的に不利な状況ですので氏政様との交渉をお願いしました』
『成る程な、これは面白い。確かにそんな事を言ったばかりだったな』
『はい』
『では2人だけでその交渉を行うとしよう。真田は一旦席を外せ』
『わかりました……』
(撃たれずに済んだのは良かったけど、不利な状況での交渉なんて上手くいくのかよ。それにあいつ、何を交渉するつもりなんだ?)
幸村が不安そうな表情をして直美を見たため、今度は直美が幸村の気持ちを察して軽く頷く。
(大丈夫だよ)
(絶対に無理すんじゃねーぞ)
言葉に出来ない会話を表情で交わすと、幸村が天守から出ていくのを見守った。