第13章 それぞれの戦い
氏政は直美と幸村を天守まで連れて行くと内側から二重に鍵を掛ける。
小田原城の天守は建物の4階部分に相当するため、普段であればここからの眺めは非常に良いものだった。
だが今そこから見えるのは、敷地内で織田軍と上杉武田の2人が北条の兵を次々倒していく光景だ。
天守のすぐ下の階では氏政の家臣たちが武装してこれ以上の敵の侵入を防ごうと待機している。
氏政は扉に鍵を掛けた後、城下を見つめながら直美に話しかけた。
『もし織田信長がこの俺と同じ状況にあったら、お前はどうやって救いだすつもりだ?』
氏政からの突然の問いかけに言葉を選びながら慎重に考えを述べる。
『圧倒的不利な立場に追い込まれたら……戦うのではなく相手と交渉します』
『術は使わぬのだな』
『はい。その様な力はありませんから』
少しの沈黙の後、氏政が口を開く。
『やはりそうか。おそらくそうなのだろうと思っていた』
落ち着きのある低い声でそう言うと、氏政は懐から銃を取り出し銃口を直美に向ける。
『織田信長や上杉武田と交渉するつもりは微塵もない』
『!!』
幸村も動けず、その場の空気が一瞬にして緊張に包まれた。