第12章 幸村のターン
『ふふっ!』
可笑しくなってきて笑いが込み上げてきた。
と、同時に流れる涙。
幸村はそれを見逃さずそっと手拭いを差し出した。
『なあ、お前ずっと笑うことも出来ずに無理してたんだろ?ここで思いっきり泣いていいぞ』
それは騒動があった時に小太郎の前で流した涙とはまた違うもので。
しばらく泣いた後は嘘みたいに心が軽くなっていた。
『傷があるのは首だけか?』
『うん……』
着物で隠れて見えない場所に幾つも付けられたキスマークの事なんて言えるはずもなく。
思わずぎゅっと拳を握りしめていた。
『氏政と何があったのか知らねーけど、俺が絶対助けてやるからそんな顔すんな』
『うん、ありがとう』
決して深くは追及してこない幸村の優しさに胸を撫で下ろす。
『じゃ、鼻水拭いたら城に戻るか!』
『そんなの出てないからっ!』
脱出計画を胸に秘め、城下町で軽く食事を済ませてから小田原城に戻る。
その姿はもちろん斥候に目撃され、信長と光秀の元に報告されていた。