第12章 幸村のターン
お互いに顔を見合わせる。
『ねぇ…あなた、前に一度お会いしましたよね?』
気になっていたことを聞いてみた。
『ああ、忘れられてると思ってたけど覚えてるなら話が早いな。俺はお前を助けに来たんだ』
やっぱりそうだ。
この時代に来た日に出会った記憶は間違いない。
疑問が確信に変わった。
でもまだまだ疑問が残る。
『ありがたいけどどうして助けてくれるの?真田家は上杉武田の傘下にあるから北条も信長様も敵なんでしょ?』
『ああ、北条は敵だ。信長も敵だ。だから今は寝返ったふりをして小田原城に来てる。このままだとお前、氏政の正室にされちまうぞ』
『ええっ!?何それ聞いてないよ。そんなの困る!』
本当に寝耳に水だった。
『なあ、お前って正室うんぬんの前に信長の寵姫なんだってな』
『あー、それは大きな誤解だよ。安土城に居候させてもらってるだけだもん』
『そうなのか?安土じゃ他の武将にも良くしてもらってるって佐助から聞いてる。信玄様は天女とか言ってるし、謙信様も珍しく気にかけてるみたいだった。
ここじゃあの忍に氏政……武将全制覇する気かよ、お前とんでもねーな!!』
『ちょっと!それ全然違うからっ!』
気づけばいつの間にか幸村と打ち解けていた。
小田原に来てからこんなに緊張感のない会話をしたのは初めてだった。