【YOI】君と、お前と、バンケで。【男主&ユーリ】
第1章 新参者の僕
抽選会場で些細な誤解から、オタベックは礼之の機嫌を損ねてしまった。
勿論、オタベックはその場で礼之に謝罪したのだが、誤解の内容が礼之にとっては最大のコンプレックスだった事と、「オタベックだって、わざと間違えた訳じゃねえだろ」というユーリの友人であるオタベックを擁護する姿に、やり場のない怒りと嫉妬を覚えた礼之が、それっきりひと言もユーリに対して口をきかなくなってしまったのだ。
そんな礼之の様子はすぐさま振付師の純の知る所となり、「君は何しにここに来てるん?」と一頻り説教された後で「ひとまず今だけは、競技以外の事は忘れなさい」と厳しく言い渡された。
競技に集中する事で、自分のつまらない拘りや競技とそしてユーリへの想いを再認識した礼之は、バンケで自分の稚拙な言動について謝罪しようと思っていたのだが、いざ彼らの姿を見つけた途端、自分の競技者としても人間としても器の小ささを痛感して、尻込みしてしまったのだ。
「おそらく彼も、俺に対して言いたい事があるだろう。まずは俺が、話をしてみようと思う」
「いや、だけど」
「ならば、お前が先に行くか?」
オタベックに問われて、ユーリは気まずそうに口ごもる。
「…以前に比べてましになったが、素直になれない所は相変わらずだな」
「うるせぇよ。でも…頼む」
消え入りそうな声で続けられた言葉を聞いたオタベックは、眉根を下げながら苦笑した。
スタッフに頼んで熱いコーヒーを貰った礼之は、カップを傾けるとその香りと温かさに安堵の息を吐いた。
するとその時、
「ちょっといいか?」
あまり良い記憶のない男の声が礼之の耳を擽り、やや緩慢な足取りでオタベックが近付いてきた。
「…何か御用でしょうか?」
「少し話がしたくて。俺の誤解で、お前を侮辱するような真似をした詫びも含めてな」
四大陸を欠場していたオタベックは、世界選手権で初めて礼之と顔を合わせたのだが、その際ユーリの傍にいた礼之の事を、その風貌から後輩のロシア選手と勘違いしたのである。
直後、礼之のナショナルジャージとユーリの説明で己の失言に気付いたが、礼之にとっては『カザフの英雄』に「お前は眼中にない」と蔑まれたも同然だったのだ。