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【YOI】君と、お前と、バンケで。【男主&ユーリ】

第1章 新参者の僕


バンケット会場で勇利や南と幾度か言葉を交わし合った礼之はユーリを探したが、程なくして他国の強豪選手達と談笑している彼の姿を見つけた瞬間、彼に声をかける勇気が失くなってしまった。
確かに今回の大会でパーソナルベストも更新し、自分はやれるだけの事はやったつもりだ。
実際に演技終了後、振付師の純やコーチからきついハグと共に沢山の労いと祝福の言葉をかけられたし、競技終了後、8位入賞の南と開催国選手として特別にEXに招かれた時も、客席の至る所から温かい拍手と歓声を貰っていた。
純の言葉を借りれば「シニア1年目にしては上出来」なのだろう。
しかし、自分の力はまだまだ遠く及ばない。
そして、競技前に大切な筈の人と下らない諍いを起こすような自分など。
(こんな体たらくで、君の傍にいる資格が、果たして僕にはあるのだろうか…?)
指で自分の唇をなぞった礼之は、ため息を1つ零すとユーリ達からそっと背を向けた。

一度はこちらを見ていた筈の礼之の姿が消えてしまった事に、ユーリは訝しげな顔をした。
競技が始まる直前、礼之と少々気まずくなっていたユーリは、わだかまりを解きたいと考えていたのだが。
「どうした」
「いや、ちょっとな…お前こそ坐ってろよオタベック。腰、痛ぇんだろ?」
「普通にしていれば、問題ない」
シーズン途中から軽度ではあるが慢性的な腰痛に悩まされていたオタベックは、大事を取って四大陸選手権を欠場し、世界選手権1本に絞っていたのだ。
「そんなコンディションでも台乗りすんだから、大したモンだぜ」
「正直、今回は難しいと思っていたが…『彼』の演技を観た瞬間、俺の中で闘志が上回った。滑っている間だけは、痛みを忘れていたからな」
口元に笑みを浮かべたオタベックに、ユーリも好意的な頷きを返す。
「それで、俺達を燃えさせてくれた『彼』は、何処に行ったんだ?」
「さっきまで、こっちを見てた筈なんだけど…」
途中で言い淀んでしまったユーリに、オタベックは数回目を瞬かせる。
「ちょっと探して来るとしようか」
「え?い、いいって!休んでろよ!」
「しかし、お前と『彼』が気まずくなった原因を作ったのは、他でもない俺だからな」
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