【YOI】君と、お前と、バンケで。【男主&ユーリ】
第1章 新参者の僕
「もう気にしてません。昔からこの容姿で誤解や揶揄される事には慣れています」
「それでも俺の不躾な発言が、お前を傷つけた事には変わりない。本当にすまなかった」
「貴方からの謝罪は、既に先日頂いております。重ねての言葉は不要です」
素っ気ない礼之の表情と返事にオタベックは小さく息を吐くも、さり気なく自分と周囲に視線をやった礼之が、空いているソファを発見した後で「僕も坐っていいですか?」と促してきた事に、少しだけ表情を和らげた。
「気遣い感謝する。お前は優しいのだな」
「…別にそんなんじゃありません」
腰を下ろしながら謝辞を述べてきた『カザフの英雄』の少々不器用な笑顔に、礼之は気まずそうに横を向く。
「僕は…競技者としても1人の人間としても、器の小さな新参者です。貴方に他意がなかった事くらい判ってるのに、それを飲み込めず、未だ自分の中で醜い感情をこじらせ続けているんです」
「本気で言ってるなら、相当な皮肉だな」
「え?」
「俺がお前くらいの歳の頃は、今以上に自分の事ばかりで、他人を思う余裕などまるでなかったというのに。成程、外見とは裏腹に中身は『サムライ』。あだ名の通りだ」
「…」
「ユーリもお前の事を、随分気にしていたぞ。競技が終わってお前と話したがっているのに、あの性格が災いして中々素直になれずにいる」
オタベックの口から出たユーリの名に、礼之は愉快でない感情を擽られた。
しかし、ユーリと友人であるオタベックは、きっと自分よりも彼の事を知っているのだと思うと、何も言い返す事が出来ずに手の中のカップを持て余す。
そんな礼之を暫し見守るようにしていたオタベックは、少しだけ距離を詰めると再度口を開いた。
「お前がどう思っているのかは知らないが、俺もユーリも互いの事は、友人の感情しか持ち合わせていないぞ?」
「…っ!?」
「やっと、まともにこっちを向いたな」
いまいち判り難いが、どことなくしたり顔のオタベックを見て、図星を刺された礼之は赤面した。
様子が気になったユーリは、物陰からこっそりとソファの2人を窺う。
険悪な雰囲気でないのに安堵するも、オタベックの言葉にはにかむように笑う礼之を確認すると「お前、あの日以来俺にそんな顔全然見せなかったじゃねーかよ」と、不機嫌そうに呟いた。