【イケメン戦国】プレゼントを探せ!〜徳川家康誕生祭⑤〜
第8章 【真紅の水仙】〜誕生祭⑤〜前編
安土城に戻ってから、
目まぐるしく時間は過ぎゆく。
朱塗りの膳をせわしく大広間に運ぶ、女中たち。大広間の飾り付けを、秀吉指示のもと家臣が行い、そして同じように誕生日祝いの宴の準備に、誰よりも励み、パタパタと台所を行ったり来たりしながら、休むこともなく軽い足取りで終始、にこやかな笑顔を見せていたのはひまりだった。
(花は広間に飾ろうかな??宴が終わったら私の部屋に飾って、毎日お水を替えたらきっと長く持つよね)
庭から戻り、思案にふけり台所へ。
水仙の花を右手で持ち、反対の手で盆を胸に抱き、ひょこっと可愛らしく顔を出すと、竃前で出来上がった料理を大皿に移す、逞しい背中に向かって声を掛け……
「政宗!これも、広間に運んだらいいのかな?」
「おぅ!頼んだ」
「ん〜美味しそうな香り?煮物?」
食欲を刺激するコクのある芳香に、
鼻先をくんくんと動かす。
「あぁ。あの大量の卵を使ってな。……それより、お前。信長さまに宴前に天守に来るように、言われていなかったか?」
ぐらぐらと煮立つ音、
ぶわっと舞い上がる湯気。
振り返った政宗は、昨晩から仕込みをしていた、肉の出汁をたっぷり染み込ませた、大根と煮卵が入った鍋蓋を片手に持ち、問いかければ……
手をパッと口にあて、
「あ!つい、準備に夢中になって。うっかりしてた!」
ひまりはそう言って、
ぺろっと舌を出して茶目っ気に笑う。
政宗はそんな姿にやれやれと息を吐き、鍋蓋を元に戻すと早く行けと促す。
「こっちはほとんど終わりだ。さっさと行ってこい。信長さまの機嫌が悪くならねえウチにな」
「うん!なら、これ運んだ後。そうさせて貰うね!」
盆の上に酒の肴を乗せ、フリル付きの白いエプロンをひらひらさせながら、くるりと方向転換。
政宗にまた後でと告げ、
台所から大広間へと向かった。