【イケメン戦国】プレゼントを探せ!〜徳川家康誕生祭⑤〜
第5章 【現代 平成30年1月31日9時】〜二人の時間〜
つい羨望の眼差しを向けた時。
「俺が選んだのは嫌なわけ?」
隣からちょっと拗ねた声。
(え……。俺が選んだ?)
まさか……
不意にチョンと、
唇にあてられたみずみずしい苺。
(もしかして、私に……?)
そう問いかけるように瞳の奥を覗き込めば、家康はふわっと髪を揺らして、斜め下に視線を移す。
「……仕方ないから。交換してあげる」
ぶっきら棒な口調とは裏腹に、赤らんだ目元。それは、家康が天邪鬼な時に見せる態度。
お互いがお互いの選んでて。お互いが自分が選んだ苺を、食べて欲しくて。自分用だとお互いが勘違いして、意地の張り合いして、更に空回り。
チョン……
「食べないの?」
鼻に広がる苺の甘酸っぱい香り。
(香りは甘酸っぱいけど、きっと甘い)
私も持っていた苺を、
家康の口元まで運んで……
一番最初に食べる苺を、
二人で同時に食べた。
戦国時代ではまだ味わうことが出来ない苺。甘いのが得意じゃない家康も、果物特有の潤った甘さは気に入ったみたいで、ぱくぱく次から次に食べて、いつの間にか今度は食べた個数を競い合ってて、私達はお腹いっぱい食べて、笑った。
学生カップル限定、おひとり様1パックの苺。家康と私の分を合わせると、2パック。それを苺狩り終了後、農園の方から貰って、まだほんの少し申し訳ない気持ちでいると……
歩みが次第に遅くなっていて、二、三歩前にいた家康の背中がゆっくりこっちに向くのが、灰色の砂利を通してわかった。
「あ。……俺、まだ食べれたかも」
「……家康」
ポツリとそう呟き、胃袋を確かめるようにさすっていた手が、ゆっくりと私に向かって伸びてくる。差し出された手に自分の手を重ねれば……
(ありがとう)
急に羽みたいにが軽くなった紙袋。
「うん!私もまだ食べれたかも!」
制服のスカートを揺らす。
明るく弾んだ声と笑顔をその場に置いて、添乗員さん緊急で帰ることになり、ツアーに参加出来なくなったことを告げる。日程のスケジュール通り。バスが昼食場所へと移動する前に、私達はタクシーが拾えそうな駅に向かって、歩き出した。