第1章 【序章】第1話 クエスト
男は村長に向かって、
「ああ、もううるさいなあ。そんなこと言うとさあ、あの子、僕のコレクションにしちゃうよ。」
「くっ。…。」
村長は、これ以上何も言えなかった。これ以上、自分の愛する家族を失わないように…。
「分かってくれて、ありがとう。
さあ、早く迎えに行かなきゃね。僕の☆。」
【ツバキ村_森の中】
私は遺跡を目指して、森の中を歩いていた。今のところ、魔物の気配が感じられないので、ここはまだ安全地帯なのだろう。気持ちばかり焦っても仕方ないと思うが、初めての一人でのクエストで不安が大きくなっていた。
(今まで、マカロフ達がいたから賑やかだったからなぁ。)
マカロフ達とのクエストを思い出しながら、森の中を進んでいた。焦る気持ちを抑え、目の前のクエストをこなすために。
【ツバキ村_森の奥】
言われた場所まで来たが、魔物の気配は感じられず、また、問題の遺跡も無かった。
(おかしい…。言われた場所まで来たのに…。道に迷った?ううん、違う。もしかして、村長さんは私に嘘をついているの?何のために?)
考え事をしていると
パキリッ
小枝が折れた音がし、振り返った。
「ど、どうして…。貴方が…。」
「やっと、会えたね。ごめんね。なかなか、会いに行けなくて。でも、これからは一緒に居られるよ。」
声がうまく出なかった。ここに居るはずの無い人が居て、もう会うことも無い人が居たのだから。
「どうして、そんなに震えているの?☆。ああ、寂しかったんだね。大丈夫だよ。これからはずっと僕が一緒に居るよ。彼奴らが僕と☆を離れ離れにしたから、なかなか会いに行けなかったんだ。大丈夫。これからはずっと、ずうっっと僕が傍に居てあげるよ。寂しい思いなんてさせないからね。」
「あ、貴方は捕まったはずです!どうして、ここに居るんですか!トラス!」
あの男は、私の前でマカロフ達が捕らえ、評議院に逮捕されたはずだ。
「ああ、やっと名前を呼んでくれた。」
そう言って、嬉しそうに笑い、私を見ていた。
蓋をして鍵をかけて、記憶の底に落としたはずの箱が浮かんでまた開けられそうなった。
どうして、そんな目で私を見るのか分からなかった。私の大切なものを傷つけた、この男(トラス)の目は濁っているように見えた。