第6章 年の瀬、花屋の二階で
空き時間は里をブラブラと歩く。
牡蠣殻は元々ふらふらと歩き回るのが好きだ。山でも里でも、慣れた場所でも慣れない場所でも、ぼんやり周りを取り留めなく眺めながら、考え事をしたりしなかったり。
大抵は伊草と一緒だ。二人で木の葉の里の、栄えて太平な道を物珍しく余所見ばかりしながら散歩する。
後を付ける木の葉の見張りがいるのは知っているが、こちらの良否に関わらず目放しならないのだろうし、警戒しているにしても気を配られてもいることはわかるから、知らぬ顔をする。
見張る側にしてみても、気付かれているのは承知だろう。
不意に消え失せたり胡乱な人物と隠れて会うような真似でもしない限り、咎め立てする気はないのだと思う。
とは言え巧者が失せるのを留め立てするのは生半なことではないし、怪しい相手と会う予定もないのだから見張りなど意味がないようにも思うが、それを見張られる側の牡蠣殻や伊草が言っても仕方がない。大人しく付けられていることにしている。
「年の瀬だけに賑やかさも増してきましたねえ」
晦日と元日を寿ぐ支度に人出の増えた里の様子に、牡蠣殻はぼうっとした目を向けて気の抜けた声を出す。
薬が抜け始めてから、牡蠣殻は体力と気力が落ちた。綱手は揺り返しだと言うが、この厄介な気怠さは未だ予期せず起こる薬のフラッシュバック共々牡蠣殻を苛んでいる。
「他里の年越しは初めてだえ。楽しみだわ、の」
目立ってくれるなという綱手のお達しに、渋々趣味の女装を諦めて地味で男らしい着物を着付けた伊草がキトキトと目を輝かせる。こちらは顔の色艶もよろしく、全く何の憂いもなく木の葉の賑わいを楽しんでいる様子。
そんな伊草をよそに、牡蠣殻はくすんだ目色で空を見上げた。
「雪になりそうです。一平様もお目覚めになる時分でしょうし、そろそろ帰りますか」
「あらら。もう戻らんとならんかえ。もそっとのんびりしてもよかろ」
「いやぁ。私、これで今のところ一平様の母親代わりですからね。お目覚めにはお側にいないと…」
ぐずるのだ。一平が。
隈の浮いた目で曇天を見る牡蠣殻に、伊草が顔を曇らせる。
「無理しとるの、磯辺」