第5章 藻裾の先行き
サスケが呆れ顔をして、 藻裾は何だか少し気が楽になった。
感情の動きも乏しく怒ってばかりいるより、訝ったり呆れたりしている方がうんといい。
事の成り行きを見守っていた水月と果燐が興味を失ったように立ち去るサスケの背中を見送って、藻裾を見、顔を見合わせた。
「何、お前、木の葉に行くの?」
水月の問いに藻裾は頷いた。
「行くよ」
「ふーん。そりゃ木の葉も迷惑するだろうな」
「ほー。なら行くの止めるか」
「いやいやいや、行けよ。早く行っちゃいなよ。きっと大歓迎して貰えると思うよ。迷惑なんてまさかまさか」
「少なくてもうちは大助かりだよ」
果燐がボソリと言って眼鏡のツルをくいと上げる。藻裾はにっこりして二人を見比べた。
「寂しがんなよ、また来てやっから」
「ば…ッ、いやいやいやいや、そんな気遣うな、マジ遣うなよ」
「海士仁にカキガラから極め付きはアンタ、磯とはもう関わりたくない」
慌てて手を振る水月と渋い顔をする果燐に、藻裾はますますにっこりする。海士仁と牡蠣殻はここで何をやらかしていたのだろう。
「藻裾」
大蛇丸が思うところある様子で口を挟んで来た。
「木の葉に行くと言うならアタシは止めやしないわよ。元々頼んでもないのに押し掛けて来たのはアンタなんだし。牡蠣殻から失せ方を教わったって話も何の収穫もなかったしねえ。教わったアンタなら教え方も知ってるかと思ったらとんだ見当外れだったわ」
藻裾は笑みを消して大蛇丸を見た。
「アタシに失せ方で何か期待すんのは間違いだってハナから言っといたでしょうが。まぁあちこち押し掛けるンのは得意だから、そっち方面なら助けにもなれたかも知れねぇけど?」
「…で、行く先々を引っ掻き回してるのね。わかるわ…」
「別に引っ掻き回しちゃいねぇけどなぁ」
「磯の潜師は商売上手だものね。どこに顔を出しても自分のペースに持ってってるんでしょう」
「別に商売なんかしちゃねぇですよ。暁じゃ逆に毟り取られたしさ」
「財布の口の固い潜師のアンタがよく暁に報酬を払うような依頼をしたこと」
「財布の口の固い奴は金の使いどころを知ってるから無駄遣いしねぇんだよ」
ふんとそっぽを向いて藻裾が素っ気なく言う。
「使いどころねえ…」
大蛇丸は口元に指先を添えてにやりと笑った。
「あまり慕って牡蠣殻を困らせないようにね」