第2章 砂
「ほ、そりゃいかん。カンクロウ、落雁をやるぞ?食うか?」
「秋田名物諸越もあるぞ」
「どっちもバッサバサの豆粉じゃねえか!喉乾くから要らねぇよ!」
「だからお茶があるんじゃろうよ」
「何ならきな粉棒もあるぞ?食うか?」
「それもバッサバサの豆粉じゃん!?」
「豆は嫌いか。なら洲浜はどうじゃ?」
「それも豆だよね!?豆しかお茶受けないワケ?おかしいじゃん!?」
「茶寿器…」
「お高くなっても豆は豆ぇ!!!」
「……杏可也叔母が何だ?」
豆菓子で揉める隠居とカンクロウを横目に我愛羅が海士仁に尋ねた。
「肥やして草を食う気でいる」
「元は磯の長老連もか」
「是」
「草を食う…」
顎に手を添えて我愛羅は考え込んだ。
「…そうか…。覚えておこう」
「木の葉も」
「木の葉も?」
「目を配ったがいい」
「…杏可也叔母は何を考えている」
眼光鋭く問われて、海士仁は首を撫で擦った。その細く長い指の隙間から、喉元の決して消えない師殺しの証である紅い傷痕が見え隠れする。
「磯」
「磯…」
杏可也が生まれ里の磯を大切に思っているのは知っている。だからこそ先代の磯影が亡くなったとき、阿修理と死に別れた後も居続けた砂を出て磯の波平を支えたのだ。
「そして一平」
息子を思うのは当然だろう。
「更には波平」
…弟思いの余録が付いた。
我愛羅はこめかみに指先を当てて頷いた。
「一平が今草にいるのは得策でないというのはお前の説明で理解した」
草は今主が居ない。里は謀略で荒れているだろう。その渦中に為蛍の第一婦人であった杏可也の息子がいては、より事態が複雑になる。そこに来て磯の長老連が一平を担ぎ上げようとしているとなれば、彼を草に置いておけないと海士仁が判断したのも分かる。下手をすれば一平の身に危険が及びかねない。
更に海士仁は一平が功者になる事を期待している。それには磯に居る事が必要だと言う。
磯の里人は不失の身である杏可也のような少数の例外を除いて、ほぼ全員が失せる術を身につけている。その上頻々と里ごと失せる環境にあれば、他里で過ごすより功者の血は覚醒め易くなるだろう。
しかしそういう状況にあって、何故杏可也は自ら一平を磯へ連れて戻らなかったのか。
何を狙って今も草に居るのか。
「お前にはまだまだ聞きたい事があるが」