第9章 年始ー長丁場ー
林檎は上手く保管すれば追熟しながら冬を越す。
が、幾ら豊作であっても庭で半ば道楽のように育てたものでは数が知れているから、春まで残っていることは先ずない。
先ずないが、今季はいつもより早く林檎が尽きそうだ。
「…おめーは人ンちのもんをどんだけ食う気だ、生まれて初めて食ったのか、林檎を」
「馬鹿にするな。林檎は好きだ」
「そら見ればわかる。嫌いでそんだけ食われたら作ったこっちが浮かばれねぇ」
「浮かばれたか?良かったな」
「良かねぇよ」
「林檎は病知らずなんだぞ。美容にもいい」
「…だから?」
「沢山食べてもいい」
「腹壊しても知らねぇからな」
「美容にいいということは」
「…いうことは?何だよ」
「私が綺麗になってしまうかも知れないということだ。嬉しいか?」
「何でおめーが綺麗になったからって俺が嬉しがらなきゃねぇんだ」
「嬉しくないのか…」
「誰が嬉しくねぇって言った」
「じゃ、嬉しいか?」
「何なんだよ!兎に角もう食うな!木の葉で腹下されて我愛羅やカンクロウに絡まれても困んだよ!メンドくせぇことになんだろ?」
「あいつらは私が腹を壊したくらいで絡んでくるような連中じゃないぞ。むしろ、笑う」
「兄弟に笑われたくて一生懸命食ってんのか?林檎の無駄だ。止めてくれ」
「無駄じゃないぞ。綺麗になるんだと言ってるだろうが」
「…酔っ払ってんのか、テマリ」
「まさか。てんで素面だ。ナメんなよ、シカマル」
シカマルは額に手をあてて溜め息を吐いた。
久し振りに顔を合わせた砂のテマリは、相変わらずだが些かテンション高過ぎの感無きにしも非ず、扱いかねて当惑頻りだ。
「あのな。これから初詣に行くんだが」
「聞いた」
「ああ、そうだな。おめーがバリバリ林檎を食い出す前に言っといたよな。で、初詣に言ったらまあ甘酒の振る舞いはあるし、この雪で数は減るかも知れねえが結構な出店もあるだろうとも言ったよな」
「聞いた」
「…なら何で林檎で腹一杯になろうとしてんだ、おめーは。何個食った?ひぃふぅ…みぃ、よぅ…」
「四個と半分。まだイケる」
「止せ。イケなくていい。これ以上食ったら置いてくぞ。食い過ぎに腹を冷やしたらどんなことになるか、考えただけでも居たたまれねぇ」
「余計な心配をするな。お前の腹のことじゃない。私の腹のことだ」