第7章 閑話休題?
「いいかお前たち。事態は深刻だ。今ここには蕎麦を買う金も餅を買う金もない」
馬鹿に凍てつく暁の広間で、角都が帳簿片手に宣言した。
折しも日付は十二月三十一日、世に言う大晦である。
「…あ?何だか全ッ然室があったまんねぇと思ったらそういうことかよ。蕎麦だ餅だ以前に灯油すらねぇんだな?」
飛段がかたかた小刻みに震えながら、対流式ストーブの上に乗せた薬缶をじっと見詰めるイタチを見た。
「…成る程。道理で何時までたっても湯が沸かない筈だ…。ストーブが着いていない…」
真っ暗な窓雲母を覗き込み、薬缶をどけて冷たい天板に触れたイタチが悲しげに呟く。
「ストーブの真横にいて今の今まで着いてねぇのに気付いてなかったのかよ。馬鹿だな、イタチ。うん」
着膨れてくしゃみをしたデイダラが、かみすぎて赤くなった鼻を擦って顔を顰めた。卓の上にキチンと支度された三本並んだみたらし団子と急須と湯呑みが哀れを誘う。
「広間に来りゃあったけぇかと思ったのに何だってんだよ、クソ」
飛段が毒づくところを見ると、各自の室の暖房も機能していないらしい。
「やけに室が暗ぇと思えばやっぱりそういうことかよ。ここも薄暗ぇしな。辛気くせぇな」
そう言うサソリは自室の薄暗さに匙を投げやりかけの傀儡の手入れをしに広間へ来たというのに、事態が好転しなかった為に大層腹を立てていた。さっきから傀儡を手入れする為の鑿をガツガツと卓に突き立てて、共用物に遠慮なく八つ当たりして傷めつけている。
「何だよ、何でそんなに金がねぇんだよ。うん?おかしいだろ。仕事してんぞ、俺たち」
手を擦り合わせて摩擦でいじましく暖をとりながら、デイダラが目を三角にする。
「草の依頼も受けたばかりだ」
鬼鮫共々明日にはその任務につく予定のイタチが、白い息を吐きながら未練がましく再点火しようとガチャガチャいじっていたストーブから角都に視線を移して目を眇めた。
「あれは歩合制。所謂成功報酬だ。金が入って来るかどうかはお前と鬼鮫にかかっている」
鹿爪らしく言う角都に、飛段が首を傾げる。
「あれ、でもボーナスは出たじゃねぇかよ。このザマでよく出せたな、ボーナス」
「出したからこのザマなのだ。うちがブラック企業ならば今こんなに困っていない…」