第2章 砂
冬の砂漠というのは物珍しい。風がよく吹き荒ぶから雪が積もる事はない。が、寒い。大層寒い。
そんな砂漠に囲まれた砂の里も、勿論、馬鹿寒い。
「正直寒いのは不得手です。暑さならばまだ凌ぎ易いのですが」
長身痩躯を縮こめて、トンビの前を固く併せた眼鏡の男は、名を浮輪波平という。砂の同盟、磯という一風変わった小里の長を任じる、所謂磯影という立場にある。
その波平を、息の合った年寄りの男女が首を振り振り腐す。
砂の隠居、チヨ婆とエビゾウだ。
「よく言うわ」
「ヤワじゃな」
「ヤワヤワじゃ」
「暑いが良いと言うならば、夏の砂に出直して来たらいいわ。そしたら今度は寒いのならば何て事ないとか抜かしよるんじゃろ」
「目に見えるようだわい」
「ダッサーじゃな」
「ダサダサじゃ」
「お二方はあいもかわらず頑強なご様子で何より…」
言いかけた波平を遮って、隈取りのある顔を歪めたのは砂の傀儡使い、カンクロウだ。
「年寄りの方が頑丈だってのは珍しい事じゃねぇの!アンタんとこだって年寄りが幅きかせてたじゃん。いちいち気迫負けしてんじゃねぇよ、ンッとによー」
腕に抱えた赤ん坊を持て余し気味に苦情するカンクロウに、大人しく指をしゃぶっていた赤ん坊が鼻にかかった笑い声を立てた。
「とにょよぅー」
辿々しく口真似して、カンクロウの頭巾を引っ張り寄せる。
「やーめーろー!!止めろ、コラ!ちょ、食うぞテメー!」
「何じゃ、腹が減ってるのか?落雁食うか?落雁あるぞ、カンクロウ」
「落雁なんか要らねえよ。んなパッサパサの食いモンすすめんならお茶くらい支度しろっつぅ話じゃん!咽て死ぬわ!」
「赤子がおるのにお湯なんか沸かしたら危ないじゃろうがじゃん」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。気を付けんの!大人が!気を付けんの!そういうの見てでっかくなってくんだからな、子供ってのは!」
「おお、一丁前の口を叩きよるの。子を設けた事もないくせに、立派な言い分じゃわい」
「意外に隠し子疑惑なんてな!ぎゃはははは!ないか!」
「…あー、うるせぇ。おいコラ。笑ってんじゃねえじゃん、このガキ。涎が垂れてっぞ…て、止めろ!摺りつくな!涎がつくじゃん!あ、バカ、涎垂らしながら笑ったりすっから泡飛んでんじゃん…ふ…はは、シャボン玉か!器用じゃん。お前…」