第6章 年の瀬、花屋の二階で
いのには言い損ねたが、テマリも今木の葉にいる。
勿論テマリはカンクロウがこんな取り次ぎをしていることを知らない。ただ薬の取引の為に木の葉の磯を訪ねたのだと思っている。だからぐずぐずしていないで、早く合流しないとあれこれ聞かれて厄介だ。
まぁアイツはアイツで今頃奈良ンとこにでもいんのかも知んねぇけどよ。
これもいのに知られればあれこれ聞かれて厄介だ。全く女ってヤツは…。
組んだ膝の上に頬杖をついて梅の形の濃紅色の銘々皿に菓子を取り分けるいのを眺め、カンクロウはしみじみした。
可愛いよなぁ。
可愛げの欠片もない男と二階へ行ったこれまた全く可愛げのない女を思って、溜め息を吐く。
…全然可愛げなくもねぇか。まさかアイツが男に飛びかかるとは思わなかったじゃん。
本当は切れた方がいい縁だと思う。あの干柿鬼鮫と居れば、牡蠣殻はまた傷付くだろう。折角治った手もまた生傷だらけになるだろう。鬼鮫にしてみても牡蠣殻と居ていいことがあるとは思えない。只でさえ厄介な我の身の上に更なる厄介を背負い込むようなものだ。
それでも。
温かいお茶を口に含んで、カンクロウはまた表に目をやった。雪の中、忙しくも浮き足だった足取りの里人が行き来している。
…年越し蕎麦はまさか波平さんの薬草蕎麦じゃねぇだろうな。辛気くせぇ。ハンバーグ食いてぇなぁ。でもハンバーグ蕎麦はねぇな。それは駄目だ。ハンバーグを嫌いになりかねねぇ。…何考えてンだ、俺は。
いのの出してくれた素甘を食べながら、カンクロウはふと思い付いた。
「なぁ。木の葉って初詣したりすんの?」
「しますよ。勿論」
「じゃあさ、案内してくんねぇ?木の葉の初詣、興味あんなー。すっごく興味あるわー」
いきなりのナンパである。
「いいですよ。でもそんな暇あるんですか?」
即答したいのにカンクロウは思わず出かけたガッツポーズを引っ込めて満面の笑みで頷いた。
「あるある。全然暇じゃん」
「…ホント何しに来たんですか?まさか砂で独り年越すのが寂しくて木の葉まで来たとか?」
「…アンタはマジでもう少しオブラートと上手く付き合うべきだな…」
「今度試してみますってば」
「今この瞬間から頼みたい」
「薬呑む用なんかないし」
「ああ、まあ、そうだよな。そうだろうな」
「寝惚けてるんですか?」
「寝惚けてるように見えるかよ」