第4章 月を捕まえる(月島蛍)
フラれたって事だろう。
意味は分かるけど、答えをくれないのだから。
「私、文系なんだよね。宇宙飛行士目指すなら、理系の方が良いらしいんだけどさ。」
ここで暗くなるのは趣味じゃない。
笑って話を切り替えた。
「文系なら、かぐや姫にでもなれば。」
「ソレ、いいね。資格がなくても月に帰れる。」
初めてする普通の雑談。
「…帰してやる気ないケド。」
この月島の言葉を最後にして会話は終わり、無言の時間が訪れる。
言葉の意味を考えて、水で冷えた体が熱くなっていくのを感じた。
急いでフェンスを登り、月島の隣に降り立つ。
月島のジャージを掴んで顔を見上げた。
「…答え合わせ、してくれる?」
「君が帰る月は僕デショ。あっちの月には帰してあげる気ないよ。」
私が答える前に、月島が正解を告げる。
いつもの、勉強している時みたいなやり取り。
ジャージを掴んだ手を握られた。
「いつかあげるよ。こっちの、月って名前は。」
手をすぐに離して、月島は背を向け歩き出す。
名前だけが好きなのだと、とんでもない勘違いをされている事に気付いた。