第4章 月を捕まえる(月島蛍)
幼い頃に見たテレビ。
よく覚えているのは、そこに映っていた地球。
とても綺麗で、いつか自分の目で見たいと思った。
その頃から月は私にとって特別なもので。
夢は宇宙飛行士。
なんて、言っていたのだけど。
歳を重ねるに連れて、それはとても難しいものだと知った。
いくら頭が良くても、いくら運動が出来ても、簡単になれるものではない。
散々馬鹿にされたのもあって、夢は夢、として諦めた。
一度手放した夢は、月に対する執着として残っている。
「…ねぇ。僕の顔、ジロジロ見ないでくれない。」
その執着心はこの、月の名前を持つクラスメイトに心を奪われるレベルだ。
今も授業中にも関わらず、隣に座るその人をじっと眺めてしまっていた。
私は月が欲しい。
月の名前を持つこの人が欲しい。
「あ、ごめん。」
軽く謝って前を向き直した。
目標があって勉強ばかりしていた頃と違って今は授業も退屈だ。
楽しみといえば、休み時間は人を避けるようにヘッドホンをしてそっぽ向いてしまう彼の顔を真横で眺められる事だけ。
普段は後ろ頭とか、ヘッドホンに邪魔されてあんまり見えないから。
見れないものが見える時間って貴重なんだよね。
昼間は見えづらい月が、夜空ならば容易に眺める事が出来るのと一緒。
そんな事を考えてしまうと、やっぱり彼を眺めてしまうのだった。