第2章 後編
「…彼女の記憶は、誰が提供してくれたんでしょうね」
ユーリは海軍が来る前にローに伝えようとしたことを伝えることにした。
ローの額に手を当てると、光が彼を包み込む。
言葉でも伝えれたけど、どうせなら夢の中で直接彼女に会った方が彼も嬉しいだろう。
ユーリはデータを全て送り終わると、再び海へと視線を向けた。
少しずつ、彼女の機能が停止していく。
「そういえば、この髪飾りのお礼を何もしてませんでしたね」
ふと思い出したように髪に触れたユーリは、その髪飾りを手に取った。
荒波に揉まれても失わなかったそれに、安堵したような笑みを浮かべる。
「……こんなことしか出来ないのですが、良かったら受け取ってください」
と言っても寝ていたら何も受け取れないですけどね。
ユーリは少しおかしそうに笑うと、ゆっくりと口を開いた。
「~♪~♪」
ユーリの歌声が静かに浜辺に響き渡る。
何時かの雑貨屋で聞いたその歌を、彼女はずっと覚えていた。
Hope to liveと言う題名のその歌。どんな意味なのか分からないが、なんとなく彼女の中で印象に残っていたのだ。
これは、ユーリとしてではなく、私としてあなたへ送ります。
彼女はずっと歌い続けた。
例え音声機能が壊れかけて、錆びついたような声になったとしても、彼女は止めなかった。
今の彼女が彼にあげれるものなど、これくらいしかなかったので、最後まで彼に届けたかったのだ。
静かな波の音に交わって響き渡るその歌声。
ロー、ありがとう。
どうか、生きてください。
歌声が途切れて、波の音だけになる。
彼女はゆっくりと、その瞳を閉じた。
その瞬間、彼女の中で刻まれていた時が、静かに止まった。