第2章 後編
ユーリは気づくと浜辺に打ち上げられていた。
すぐ隣にはローもおり、急いで生命反応を確認した。
「……どうやら異常はないようですね」
ユーリはローから手を離すと安堵の息を漏らした。
あの海へ飛び降りて無事なのは、最早奇跡なのかもしれない。
ユーリはローを仰向けにすると、何時ものように膝の上に彼の頭をのせて、彼の髪を撫でていた。
眠っているように意識を失っている彼は、暫く目を覚まさないだろう。
「…あの一瞬、私はユーリになれたのかもしれませんね」
ローを助けに行こうとした時から途切れた記憶。
気づけば、彼女の声が聞こえて来たような気がした。
ユーリは目の前に広がる美しい海を見ていた。
先ほどこの島の中から人の生体反応も確認できたので、もう少しすれば誰かが通りかかって助けてくれるだろう。
その時が来るまで、このままこうしていたかった。
ユーリの身体はボロボロだった。左足は完全になくなっており、皮膚も至る所が剥がれ落ちていた。
ロボットの心臓ともいえるコアにも、大きな傷を負っている。
恐らく彼女に残された時間は、もうほとんどないだろう。
「こんな姿、あなたには見せられませんね」
頬も一部剥がれ落ち、金属が見えている部分に触れてユーリは困ったように笑った。
「彼女は本当に愛されていたのですね。…少しだけ羨ましかったです」
ロボットには感情はないはずだ。
だけど、ローに触れて色々な思いを読み取っている内に、彼女の中にも感情というものが分かるようになっていた。
それを完全な形にするまでには至らなかったけど、それでも彼女にとっては大きな進歩だった。
「最後の方は、ちゃんと私を見てくれたんですね。嬉しかったです」
ローの心を読み取っていると、ユーリへの思いの中にロボットとしての彼女を思う気持ちも現れ始めていた。
それも完全に形になる前に終わりを迎えることになったけど、それだけで彼女は十分幸せだった。