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【MHA】声を聞かせて

第1章 サヨナラ、引き篭もり生活


「人使、琴葉を美容室に連れてってあげて。」


 翌日、お母さんに言われ、夏休み中であった弟の人使と美容室に行く事になった。私と違って、毎日陽の光を浴びて健康的な生活をしている筈の人使は、相変わらず不健康そうな顔立ちで、目の下のクマも前よりもくっきりとついていた。

 5つ年下の弟に連れられてやって来た美容室。お洒落な雰囲気に落ち着かなかった。一応ブラシは掛けたけど、そのお洒落な雰囲気から完全に浮いている私。喋れない私の代わりに人使が美容師さんと話してくれている。弟の手を借りなければ、外に出る事も出来ない私は姉として…いや、人としてどうなのか。
 笑顔を浮かべ、私に接してくれる美容師さん。鏡越しに目が合ったが、気まずくてすぐに鏡から目を逸らした。2年半の引き篭もり生活の結果、人使に負けず劣らず不健康そうな風貌となった私。高校生活3年間でつけた筈の筋肉は衰え、やせ細ってしまった。そんな自分の姿をこんな大きな鏡で見なければならないなんて拷問でしかない。そして、人使はこの美容師さんに私が喋れない事を伝えてくれなかったのだろうか、マシンガンのように話し掛ける美容師さん。家族以外の人間と会う事も2年半ぶり。そんな私が知人でもない彼とコミュニケーションを取れる訳が無い。首を横に振るか、縦に振るかしか出来ない私。状況が状況だけに、首を動かせば、髪がザックリと思いもよらぬ所で切れてしまう。申し訳ないが、ここは黙っているしかないのだ。


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