第2章 世界で一番最悪な夜
なんの予定もなくなった私は
意味もなくホテルの最上階、
barへ向かう。
なんだこれ、
思いで巡りなんて虚しいだけじゃない。
エレベーターから見える綺麗な夜景が
さらにその思いを助長させる。
チン、と
エレベーターが最上階に着く音がした。
barへ行くとドアマンが扉を開けて
いらっしゃいませ、とエスコート。
「…ひとり、なんですが」
こんな場所に1人で来るなんて
初めてで少し緊張した。
ご案内させて頂きます、と
後から別の案内係がやって来て
カウンターを案内される。
席に腰かける前に
辺りをチラッと見渡すと
時期が時期なだけにカップルが多い。
私は本当にバカなんだと思う。
傷口に塩を塗るような行為を
自分でするなんて。
「何にいたしましょう」
バーテンさんが
素敵な笑顔で私に聞いてくれた。
もう、
忘れてしまいたい。
だからわざと
あの日と同じメニューを。
彼と一緒に飲んだ物を。
「…シャンパンを、ボトルで」
「……お客様、宜しければ
とても珍しいシャンパンがあるのですが」
「…え?」
バーテンさんが微笑み
1歩後ろへ下がると
隣からフワッとマスカットの香りと
「グラスは2つ、お願いします」と
聞きなれない男性の声。
ふと隣を見上ると
スーツ姿の鼻筋が通った男性。
「……え?」
「…もし、よければ邪魔はしないので
シャンパンを飲んでは頂けませんか」
もう1度、バーデンさんを見ると
やっぱり柔らかく笑っていた。