第5章 忍物語
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私を闇から救って下さった養父が病気で亡くなった。大切な方が苦しみ死を迎えるのを見るのは2度目。
母も私を守りながら病死し、祖父に当たる者と村の者に追われている時。
伊賀の頭領である丹波様の命が切っ掛けでしたが引き取って下さった後も実の子の様に可愛がって下さった。
ご恩は必ず丹波様と理兵衛様のお二人にお返ししたい、そう誓っていたのに私は理兵衛様の死を阻止する事が出来ずたった5年で大切な方を2人も亡くした。
力を付ければ付ける程、厳しい任務もこなし成功させて戻るも
雹牙と共に伊賀の里の者に疎まれている者同士、彼等の私達を見る目は化け物のソレ。
丹波様がおかえりと出迎えて下さる姿に、申し訳ない気持ちが膨れ上がっていった。
『伊賀の頭領は化物にご執心らしい』そんな下っ端達の嫌味を耳にして、黙って里でのうのうと生きて行くのにも限界で。
雹牙と共に頭を下げ草として、婆娑羅を持つ宿命と言いましょうか。傭兵とし、草として雇って下さる主の元に行くと願い出た時の丹波様の顔は…『頭領』の肩書き故に子供を守れないと言う。忍に似つかわしくない悔しそうな顔だったのを今でも忘れません。
まあ、雹牙は…婆娑羅者なのに婆娑羅を持たぬ父に一向に勝てないと言う反抗精神も混ざってたと思いますが。私と同じ感情も腹に抱えてた故に、反抗を表に出し労りを隠したのは彼らしいと笑えば怒られましたがね。
闇の婆娑羅は心に侵食していくのだと丹波様や理兵衛様が仰っていたのを思い出したのは。ぜえぜえと肩で息をし疲弊し切った雹牙が脂汗を流しながら、私の忍服の合わせを掴んでいた時。
それ以前の記憶は朧気で何が起きたのか分からず。
周囲を見渡せば激しく争った様な…氷が飛び散っていて、森であったろう大地が抉れていた。
ドサリと雹牙と共に座り込む。
異様な倦怠感に呆然としていれば「やっと正気に戻ったかこの馬鹿」と全身傷だらけで満身創痍の彼の言葉にまさかと顔を青くさせた。
「いつ、飲まれました?私は」
「最後に覚えている出来事は?」
最後、あの時は……確か諜報から安土の地に戻った直後だった様な。
安土の若様が、そうだ。殿を抹殺するとの決意をしましたね。